『悪意の商標出願について』

最近、海外に進出しようとしたが、自社が使っている商標が既に他国で商標登録されてしまっており、対処に苦労しているという事例が増えてきているように感じます。
 以下、このような事例の対応策等について意見を述べます。
(1)。他人の商標が登録されていないことを利用して、第三者が 不正な目的で当該商標の登録出願をすることを悪意の商標出願といいます(適切かは疑問ですが、冒認出願と呼ばれることもあります)。
例えば、中国での無関係な第三者による「YONEX(図形)」、「無印良品」「MUJI」、「(クレヨンしんちゃん図形)」の商標登録が挙げられます。
 悪意の商標出願は、一攫千金のための投資と捉えて個人が行う場合も多々あるようです。特にインターネットの普及により、個人でも容易に外国の商標・ブランドの情報を入手できるようになったことが背景にあります。
 一旦商標登録されてしまうと、それを取消したり無効にするには多額の費用と手間がかかります。しかし、これを諦めて安易に商標権の買い取りを希望すると、足下を見られて過大な金額を支払う結果となるおそれがあります。

(2)これは各国共通の問題です。そこで、日本国特許庁は、日米欧中韓の商標五庁(TM5)の協力枠組みにおいて、「悪意の商標出願対策プロジェクト」を主導・推進しております。
 このプロジェクトでは、悪意の商標出願に関し、各庁の制度・運用の情報交換を行うとともに、ユーザーに対してこれらの情報提供を行うことを目的として活動しております。
 このような国際的な取り組みの他、日本国特許庁は、平成28年度より、海外での悪意の商標出願に関して、異議申立や無効審判請求、取消審判請求などの、登録の取消・無効にするための費用の一部を助成する制度を設けております(補助率:2/3、補助上限枠:500万円)

(3)以上は、外国における悪意の商標出願の問題です。
 一見すると国内ではあまり問題になっていないようですが、実はかなり深刻な問題が生じています。
 近年、ある個人・特定の企業により、他人の商標の先取りとなるような出願が大量にされています。
 上位2者による平成27年の出願数は年間約1万4千件以上で、日本全体の出願件数の約1割がこの2者による出願です。
 このような出願が大量にあるため、たまたまこれらの出願と類似する商標を出願した場合、先の出願の審査結果を待つ必要があり、商標登録されるまでの時間がかなりかかってしまいます。しかも、さらに分割出願をして延命を図っている場合もあり、かなりの大迷惑です。
 なぜこのような大量な出願が可能かというと、出願時の手数料(印紙代)を支払っていないからです。制度上、出願時の手数料を支払っていないからといって直ちに出願が却下されることはなく、救済のため一定の期間内に納付する機会が与えられます。このような制度が悪用されています。

(4)しかし、そもそも商標法の目的は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」にあります(第1条)。
 事業者が様々な思いを込めて採択した商標を自己の商品・サービスに使用し、少しでもその価値を高めようと努力をし、それにより蓄積された信用を保護するのが本来の商標制度といえます。それを当初から全く予定しておらず、商標法の趣旨を逸脱するような商標登録出願は排除されるべきです。
 上記の大量出願は、いずれにせよ手数料不納で出願却下されます。また、納付された場合でも、自己の業務に係る商品・サービスについて使用する商標ではないとして拒絶される可能性がありますし、その他の条項により拒絶される可能性があります。
 特許庁も、「仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。」との呼びかけをしております。