『新しいタイプの商標の保護制度について』

平成27年4月1日より施行された改正商標法により、商標の保護対象が拡充しました。 具体的には、これまでは、文字、ロゴタイプ、図形(マーク等)、立体的形状が商標法の保護対象でしたが、この改正で、以下に示す5つの商標が新しく追加対象となりました。 (1)動き商標 文字や図形等が時間の経過に伴って変化する商標です。 例えば、テレビやコンピューター等に映し出される変化する文字や図形などです。 (例)映画の開始時に、サーチライトの光線と共に、移動しながら映し出される「20th Century Fox」の文字。20世紀フォックス社(米国登録) 出願には、 (a)動きが理解できるように、動く部分の軌跡を付けた図を1枚付けます。 (b)パラパラ漫画のように、異なる複数の図を付けます。 (2)ホログラム商標 文字や図形等がホログラフィーその他の方法により変化する商標です。 見る角度によって変化して見える文字や図形などです。 (例)クレジットカードに貼られたホログラム。アメリカンエキスプレス社(米国登録) 出願には、見る角度によって変化する複数の図を商標見本とします。 (3)色彩のみからなる商標 単色又は複数の色彩の組合せのみからなる商標です。 例えば、商品の包装紙や広告用の看板に使用される色彩などです。 (例)青色、白色、黒色による3本の横縞模様。トンボ鉛筆(欧州登録) 出願には、色彩を表示した図を商標見本とします。 (4)音商標 音楽、音声、自然音等からなる商標であり、聴覚で認識される商標です。 例えば、CMなどに使われるサウンドロゴやパソコンの起動音などです。 (例)「ヒ・サ・ミ・ツ♪」久光製薬(欧州登録) 出願には、 (a)五線譜で表現します。 (b)音の種類や音の長さ、音の回数、音の変化などを文字により記載します。 (c)音声ファイルを堤出します。 (5)位置商標 文字や図形等の標章であって、商品等に付す位置が特定される商標です。 出願には、商標の位置を特定する部分以外が点線にて描かれた物品を商標見本とします。 (例)赤い裏地の靴。クリスチャン・ルブタン社(米国登録)                            →詳細はこちら(特許庁)

『悪意の商標出願について』

最近、海外に進出しようとしたが、自社が使っている商標が既に他国で商標登録されてしまっており、対処に苦労しているという事例が増えてきているように感じます。  以下、このような事例の対応策等について意見を述べます。 (1)。他人の商標が登録されていないことを利用して、第三者が 不正な目的で当該商標の登録出願をすることを悪意の商標出願といいます(適切かは疑問ですが、冒認出願と呼ばれることもあります)。 例えば、中国での無関係な第三者による「YONEX(図形)」、「無印良品」「MUJI」、「(クレヨンしんちゃん図形)」の商標登録が挙げられます。  悪意の商標出願は、一攫千金のための投資と捉えて個人が行う場合も多々あるようです。特にインターネットの普及により、個人でも容易に外国の商標・ブランドの情報を入手できるようになったことが背景にあります。  一旦商標登録されてしまうと、それを取消したり無効にするには多額の費用と手間がかかります。しかし、これを諦めて安易に商標権の買い取りを希望すると、足下を見られて過大な金額を支払う結果となるおそれがあります。 (2)これは各国共通の問題です。そこで、日本国特許庁は、日米欧中韓の商標五庁(TM5)の協力枠組みにおいて、「悪意の商標出願対策プロジェクト」を主導・推進しております。  このプロジェクトでは、悪意の商標出願に関し、各庁の制度・運用の情報交換を行うとともに、ユーザーに対してこれらの情報提供を行うことを目的として活動しております。  このような国際的な取り組みの他、日本国特許庁は、平成28年度より、海外での悪意の商標出願に関して、異議申立や無効審判請求、取消審判請求などの、登録の取消・無効にするための費用の一部を助成する制度を設けております(補助率:2/3、補助上限枠:500万円) (3)以上は、外国における悪意の商標出願の問題です。  一見すると国内ではあまり問題になっていないようですが、実はかなり深刻な問題が生じています。  近年、ある個人・特定の企業により、他人の商標の先取りとなるような出願が大量にされています。  上位2者による平成27年の出願数は年間約1万4千件以上で、日本全体の出願件数の約1割がこの2者による出願です。  このような出願が大量にあるため、たまたまこれらの出願と類似する商標を出願した場合、先の出願の審査結果を待つ必要があり、商標登録されるまでの時間がかなりかかってしまいます。しかも、さらに分割出願をして延命を図っている場合もあり、かなりの大迷惑です。  なぜこのような大量な出願が可能かというと、出願時の手数料(印紙代)を支払っていないからです。制度上、出願時の手数料を支払っていないからといって直ちに出願が却下されることはなく、救済のため一定の期間内に納付する機会が与えられます。このような制度が悪用されています。 (4)しかし、そもそも商標法の目的は、「商標を保護することにより、商標の使用をする者の業務上の信用の維持を図り、もつて産業の発達に寄与し、あわせて需要者の利益を保護すること」にあります(第1条)。  事業者が様々な思いを込めて採択した商標を自己の商品・サービスに使用し、少しでもその価値を高めようと努力をし、それにより蓄積された信用を保護するのが本来の商標制度といえます。それを当初から全く予定しておらず、商標法の趣旨を逸脱するような商標登録出願は排除されるべきです。  上記の大量出願は、いずれにせよ手数料不納で出願却下されます。また、納付された場合でも、自己の業務に係る商品・サービスについて使用する商標ではないとして拒絶される可能性がありますし、その他の条項により拒絶される可能性があります。  特許庁も、「仮にご自身の商標について、このような出願が他人からなされていたとしても、ご自身の商標登録を断念する等の対応をされることのないようご注意ください。」との呼びかけをしております。

『登録異議申立・無効審判について』

商標法では、商標登録後であっても、その登録を取り消したり無効にしたりすることができる制度が定められています。  そのひとつは、「登録異議申立」制度です。これは、公衆の利益保護の観点から、第三者による申立てに基づいて特許庁による登録処分の見直しを行い、瑕疵ある登録処分を是正し、登録の信頼を図ることを目的とするものです。もうひとつは、「無効審判」制度です。これは、登録の適否を巡る当事者間の紛争解決を目的とするものです。  両制度の概要は以下のとおりです。 <申立人・請求人>  登録異議の申立ては誰でも行うことができます。対して、無効審判は利害関係人しか請求できません。 <申立て・請求の期間>  登録異議の申立てができる期間は、商標公報発行後2ヶ月以内です。対して、無効審判はいつでも請求でき、商標権の消滅後に請求することもできます。ただし、無効理由によっては商標の登録日から5年が経つと請求できなくなる場合がありますので注意が必要です。 <申立て・請求の範囲>  登録異議申立・無効審判ともに、全ての権利だけでなく、一部の権利(商品・役務ごと)について争うことができます。 <対立構造>  登録異議申立においては、商標権者は審判官からの通知に応答すればよく、申立人に直接応答する必要がありません。そのため、登録異議申立の場合は商標権者と特許庁とが対立する構造になります。無効審判の場合には当事者同士が対立する構造になります。 <申立て・請求の結果に不服がある場合>  登録異議申立も無効審判もその結果に不服がある場合は、知財高裁に不服の申立てを行うことができます。ただし、登録異議申立において、商標登録の維持が決定した場合は、この決定自体について不服を申し立てることができません(この場合は、別途、無効審判を請求することで、登録の適否を争うことができます)。  登録異議申立や無効審判により商標登録が取り消されたり無効にされたりすると、原則として商標権は遡及的に消滅し、最初からなかったものとなります。  現在、出願された商標は『特許情報プラットフォーム[J-PlatPat]( https://www.j-platpat.inpit.go.jp/web/all/top/BTmTopPage )』で公開され、商標登録がなされたことも商標公報発行と同時期にこのサイトで確認できます。取り消したい瑕疵のある登録商標を発見した場合や、登録異議申立・無効審判請求を受けた場合、まずはご相談ください。